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その夜、省吾は定時で退社し、地元のH市で友人の勝村と食事をしていた。勝村は高校の同級生だった頃からの友人であるが、彼は省吾と違ってあまり酒も飲まず、省吾が学生時代の大半を費やしたスキー、それにパチンコや麻雀、競馬といったギャンブルももちろんしないので、あまり一緒に遊んだという記憶はないのだが、非常に他人のことを思いやる人間で、省吾が将来のこととか、あるいは女性問題などで悩んだりするときにはいつも頼りになる存在であった。 食事をしながらの話題は、当然のようにここ一連の省吾の周辺の動きの話に終始した。省吾は勝村に鈴美や後藤嬢の存在について話して、先月K市に行ったときから、先週の鈴美と二人で逢ったときのこと、そして今日のファクシミリの件までを簡単に説明した。 「それで、どう思う? この竹内さんのファックス」 「そうだなあ、普通に考えればその人が省吾に好意を寄せているように聞こえるけど‥‥。でも、その人は婚約者がいるんだろう?」 「そうなんだ、問題はそこなんだよ。だから俺が思うには、彼女は恋愛感情というのとは少し違った好意、まあ、よくある話だけど異性の友達っていう感じを、俺に対して抱いているんじゃないかな」 省吾は若干自嘲気味に言った。省吾には異性の友人も多いが、そのうちの何人かは省吾の方は恋愛感情を抱いていたのだが、相手にとって省吾はその対象となり得ず、その後普通の友達づきあいを続けている、という女性も含まれていた。この辺の経緯をよく知っている勝村は苦笑いをしている。 「ただね、まだ救いがあるのは、俺がまだそんなに真剣に好きになっていないことだな。今は電話で話しをしたり、また逢えることを考えたりすると気持ちが浮かれてくるのは確かだけど、例えば、今この段階で今後逢うことがなくなってしまうと想像したら、それはもちろん寂しいけど、決して我慢できないことではない」 「好きになりかかっている、といったところか」 「まさにそんな感じだ。それに、後藤嬢のことも頭が痛いし‥‥」 「まあ、いずれにしても、あまり焦らないことだよ。時間を置けば冷静な気持ちになって物事が見えるし、また違った動きがあるかもしれないし‥‥」 勝村は当り障りのない、ごく当たり前のことを言ったが、それはまったくそのとおりで、相談に対するアドバイスとしては的確なものであった。しかし、せっかくの勝村の助言も無駄になってしまうかもしれない、と省吾は感じていた。勝村に説明した今の気持ちに偽りはないのだが、久しぶりに訪れた恋をするという感情は、自分の理解よりも猛スピードで心の中で膨らんでいくだろう、と思っていたからであった。 (続く) ※ この小説はフィクションであり、実在する人物、団体名等とは一切関係ありません。 転載・盗用を禁じます。 |
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